NOT YOUR EVERYDAY DOORMAT

ネッフリ・アマプラの記憶

ラブレス

 

ラブレス(字幕版)

ラブレス(字幕版)

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Prime Video
 

 

感想

息子が不憫でならない…

あらすじ

アースクエイクバードに比べて内容がみっちり詰まってる映画だったー。

ロシアの冬ということもありながら、風景が荒涼としてるのは登場人物の心象風景のよう。

夫婦として、末期も末期、断末魔、虫の息のボリスとイニヤ夫妻。家売ったりとか色々やることもあってか、顔を合わせればいがみ合い。お互いに12歳になる息子アレクセイの親権を押し付けあって売り言葉に買い言葉の大喧嘩。こういう場面のお約束、もちろん当の息子が聞いております。

このシーンがすごく秀逸で胸が痛かった…

母親が閉めたお手洗いのドアの影で声を殺して、顔をクシャクシャにして泣くアレクセイ。愛のない結婚から生まれて、どちらの親も自分を必要としていない(と、少なくともその瞬間は思える)。大人ならそんな関係から脱却することが出来ても、子供は愛もない自由もない世界に捕らわれて後数年は生きなければいけない。

アレクセイはこの時に消えてしまいたい、消えてしまおうと思ったのではないかなー。

翌朝、母親(仁王立ちでスマホをいじる)が用意した朝食をほとんど残して(この時も片目からポロッと涙を流すの…つらい…)家を駆け出すアレクセイには何か決意めいたものを漂わせている。

イニヤもボリスも幸せとはいえない環境で育って、二人の間の婚姻は失敗したけれど、悪いのはあくまで相手、という認識で新しいパートナーは自分が探していた要素を兼ね備えているので、今度こそうまく行くと確信しているけど、結局アレクセイが見つからないまま始まったそれぞれの新生活は周囲も含めて幸せには見えず、不必要だと言い放った息子の不在が埋めがたい穴を二人に開けていることがよく分かった。

イニヤもボリスも非常に未成熟で自分勝手だけれど、アレクセイを愛してなかったわけではなかったんだろうね。

ひどく損傷した子供の遺体を確認に行った時に、イニヤは取り乱し、アレクセイの身体的特徴を一つ一つあげて、これはアレクセイじゃないと否定するし、ボリスにも否定しろ!と迫って、ポロッと、あの子を手放すつもりなんてなかった…と告白する。本気か不明だけど。

未成熟故に自分の行動にコントロールが利かず、相手にどんな影響を与えるのかよく考えずにコミュニケーションとってしまう。成熟っていうのは、肉体的に大人になるとか、成功したと見なされる職業を得るということとイコールではなくて、成長の過程で親の愛を十分に受け取ったと子供が無意識下で認識することで、その過程が不完全だと精神的に大人になって人を思いやることってできないんだね…。

行方不明になったアレクセイを探すのに協力するボランティアは実在の団体をモデルにしているようなんだけど、軍隊のように系統だっていて、子供の失踪(恐らくは家庭に問題が理由の)がロシアでは多くある事象であることを想像させる。

最終的に二人が確認した損傷のひどい遺体がアレクセイだったのか(二人のショックの受け方からそうだったとも思える)、ただ単に見つかっていないのか明確に示唆はないんだけど、私にはアレクセイが強く強く消えたいと願った結果、本当に跡形もなく消えてしまったんじゃないかと思った。ファンタジーだけど。

合間とラストに差し挟まれるウクライナ情勢のニュースは何を意味していたのか、ロシアを取り巻く社会とそこに存在する問題をよく知っている人には見えるものがあるんだろうけど不勉強で分からず。残念。

ラスト、ベランダに置いたトレッドミル(壊れないん?)で空虚な表情を浮かべて立ち尽くすイニヤの着るジャージの胸に見える『RUSSIA 』の文字。

未成熟で無関心な人間が弱いものを傷つけて自分も決して幸せにならない、それが今のロシア、そう言っているのでしょうか。